終章

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猛はミラー越しに、龍吾を見る。 「一つだけ、わからないことがあるんだ。 なぜ水魚は、こんなに今回の祭に、こだわったんだろう。 御子が蘭を宿主に欲しがったからってのは、わかる。 でも、巫子候補が生んだ子どもを、御子といつわったとしてもだ。 村のなかに本物の御子がいるかぎり、研究所のやつらに、正体を知られる危険性を、つねに、はらんでる。 なのに、しばらく研究員の目をごまかせれば、もうずっと安全みたいな口ぶりだったじゃないか」 つかのま、龍吾は迷っていた。 「これは、あんたたちに言ってもいいのかな。 まあ、蘭さんのことも心配だし、打ち明けといたほうがいいんだろうな。 おれは直接、予言の巫子から聞いたわけじゃないし、水魚ほど、くわしくは知らないんだが」 なんか、いやな感じに前置きするなあ……。 「今後、数年のあいだに、世界中をまきこむ、ある大事件が起こるらしい。 パンデミックが、どうとかって。 どうも、あの研究所のせいらしいんだ。 ……ていうか、今回のおれたちの計画が成功するかしないかでも、結果が変わったらしいんだが。 どう変わるのかは、水魚は言わなかった。 あいつは世話をしてるうちに、けっこう、予言の巫子と仲よくなってたんだ。 まあ、それで未来を知って、それに備える計画を立てた。 で、あいつの言うことによると、その大事件が起こるまでのあいだ、御子を守ることができれば、おれたちの村は自由になれるんだってさ。 なんてったかなあ。『この世の最後のユートピア』だったっけ? 水魚たちも、もう苦しまなくていいらしいし。 だから、今度の祭だけは、どうしても成功させなきゃならなかった」 「なるほど。今度のことで生まれてくる子どもを、いけにえにしといて、残りの数年をやりすごす腹か」 「そう言われると、ちょっと痛いもんがあるなあ。 でも、まあ、そう。 どっちにしろ、その事件をさかいに、研究所の実権は、おれたちに移るらしい。 そのときには、美咲の子も取り戻す」 猛は、そのあと、ずっと考えこんでしまった。 龍吾の言った内容は、百合花さんの置き手紙を思いださせるし、なんとなく不吉な未来を、連想させるのだが……。 「水魚が言ってた。 その大事件の第一報がニュースで流れたら、三人とも必ず、おれたちの村に帰ってくるようにって。
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