一章 不死伝説の村

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ん、まあ、たしかに。 どうせ食べるなら、美しい人の肉のほうが、おいしそうな気はする。 「そうですか? かーくんだって女の子みたいで(蘭さんに言われたくない……)、かなり、おいしそうですよ」 蘭さんは麗しいおもてに、美人にあるまじき邪悪な笑みを浮かべる。ニヤッとね。 この人は、こういう話題、ツボなのだ。じゃないと著作にも書かないか。 「どうせだから、三人で食べっこすればいいじゃないですか。猛さんの肉は硬そうだけど、体が大きいから、食いではある」 な……生々しいなあ。 「だいたい、どんな状況で難破するかにもよりますけど、人間って飲み水さえあれば、けっこう生きていられるんですよ。 海なら飲み水は海水を飲めばいいわけです」 「ちょっと待った。海水って飲んじゃいけないんじゃないの?」 「大量に飲むと、血中の塩分濃度が上がって、幻覚が見えたりしますけど、少量なら大丈夫。 飲めないってのは、デマです。 前に、海水だけ飲んでヨットで航海した、どっかの教授、ニュースで見ました」 ほんと、蘭さんは、こういう、ちょっと変なこと、いろいろ知ってるなあ。 「だから、飲み水はある。それなら食べなくても二、三ヶ月は生きてられる。おたがいの肉を食べあうのは、そのあとですよね。 できれば文明社会に帰ってきたとき、あまり精神的打撃を受けていたくないですから、いちおう、ギリギリまで粘ったことにしとかないと」 いちおうって……。 「それで、いよいよとなったらジャンケンです。順番を決めて、足か腕を一本ずつ食べていくことにしましょう。 止血さえしておけば、人間、手足の一本や二本で死にやしません。 僕的には両手そろってないと、キーボード打てないので、差しだすなら足ですよね。 足のほうが肉も多いですし、膝下、大腿部と、二回にわけて食べられるでしょ? 週一回のペースなら、三人で、かなりの長期、生きていけると思うんですよ」 蘭さんの熱心さに、僕と猛は正直、ひいていた。 なんか蘭さん、難破しなくても、人肉、食べたそうに見えるよ。 「まあ、そうだな。いざってときには、そのくらいの覚悟はいるのかもな。 手足を失えば、その後の生活に支障はきたすが、死ぬよりマシか」
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