一章 不死伝説の村

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と、猛が言うと、蘭さんは目を輝かせた。 「でしょう? 僕、医学書、買って、大動脈の位置とか勉強しときますよ。失血死しちゃったら元も子もない」 いやいや、まず難破することないし……。 「トカゲの尻尾みたいに、切っても切っても、何度でも生えてくれれば、言うことないんですけどねえ」 というような会話が、僕らのあいだにあった。 まもなく、あの事件に遭遇するのだが、そのとき、僕はこの夜の会話を思いだした。 そのくらい、常識の通用しない、異常な事件だった。 事件の始まりは、珍しく、僕らのもとに掛かってきた依頼の電話だ。 僕が兄の探偵事務所、手伝うようになってから、まだ五本めぐらいの依頼ね。 兄は今時、浮気調査をしない、信じられないアナログな探偵だ。 まあ、それには、わけがあるのだが、このわけは、そのうち書く機会があるので、今はとばす。 久々に鳴った事務所用の電話(事務所って言っても自宅だよ)を僕がとると、聞こえてきたのは、若い女性の声。 「あ、かーくん? あたし、愛梨だけど」 「ああ、アイちゃんかあ。元気だった?」 「元気。元気。毎日、まじめに仕事場、通ってるよ。こっちには、かーくんや猛さんみたいなカッコイイ男子おらんけん、職場結婚は望み薄だけどねえ」 お世辞でもカッコイイなんて言ってくれるとは、アイちゃんは、いい子だ。 ほんとに二枚目の猛はともかく、生まれてこのかた、カワイイとしか言われたことのない僕にまで。 ところで、アイちゃんは本名、磯辺愛梨。僕らの遠い親戚だ。 どんくらい遠いかというと、じいちゃんの最初の奥さんは結婚後数年で亡くなった(これも呪いのせい)。 この人の妹の長男が、磯辺健一。 今じゃ血縁関係のなくなった僕らに、いまだにお歳暮にズワイガニを送ってくれる、ありがたーい人だ。 アイちゃんは健一おじさんの末っ子で、僕らには、なんとなくイトコっぽい感じ。 去年、山陰旅行(おじさんちは島根県)に行ったとき、お世話になってるお礼に、豪勢な手土産を持っていった。 このときは、たまたま、大金、持ってたんで。 当時、アイちゃんとは初対面だったんだけど、その日のうちに「かーくん」「アイちゃん」と呼びあう仲になった。 メアド交換して、メールのやりとりしてる。 けど、電話は珍しいな。家族割り、きかないのに。 「どうしたの? なんかあった?」
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