一章 不死伝説の村

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猛にいたっては、ギリシャ彫刻のアポロンみたいなハンサムだ。 でも、蘭さんの美しさは、そういうレベルじゃない。 峰の白雪のごとき純白の肌。 赤い唇。 あわいブラウンの大きな瞳(まつげバサバサ)は、西洋人みたいな、くっきりした二重まぶた。 鼻すじも通って、気品あるしねえ。 もともと誰もがハッと息をのむほど美しいのに、最近の蘭さんは、半女装。 要するに、ナンパよけなんだけど。 はっきり女装だと男がウルサイんで、半女装なわけだ。 上半身は男だとわかるように体のラインが出るニットとか、長袖Tシャツとか。下半身は男性用巻きスカート。 メイクはなしで、古代風のエキゾチックなアクセサリーをジャラジャラ……というスタイル。 いにしえの都の巫子みたいで、妖しく美しいのだが、すごく、目立つ。すごく、を十回くらい強調したい。 でも、これだと、女の人に声かけられたら、「女性に興味ないんです」と言えるし、反対に男には「ただの女装マニアです。ノーマルなんです」と断れる。 ここまでしないと、つきまといが絶えない。ほんと、蘭さん、苦労がつきないなあ。 この前、健一おじさんちを訪れたのは、蘭さんと知りあった事件の帰りだったので、アイちゃんも蘭さんとは面識あるんだけど……。 「いやァっ。蘭さんが女の人になっちょるゥ。うそォ。でも、キレイっ!」 駅まで僕らを迎えに来たアイちゃんは、蘭さんをひとめ見るなり悲鳴をあげた。 ムリないか。 この前は、まだフロックコートにカラコン(もちろん、ナンパよけ)だったもんなあ。 「最近、猛さんと、つきあいだしたんです(やめて。本気にされる)」 「へえッ。やっぱり都会の人は進んでるんですねえ」 「違うよ。ジョーク。ジョーク」 あわてて僕は弁解したが、猛は無言。 ちゃんと否定しようよ。兄ちゃん。めんどくさいのか? 細かいこと気にしないにも、ほどがある。 まあ、そんなこんなで、その夜は磯辺家に、ごやっかいになった。 海の幸ざんまいで歓待されて、成功報酬を前渡しで受けとっちゃった気分。 うまいっ。 刺身の鮮度が違う。それに生鮮ものだけじゃなく、手作りの塩辛が、なんか絶品。サバの塩辛なんて、これだけで、ご飯三ばいはいける。 「愛梨がお呼びたてして、すまんかったねえ。わざわざ遠くから来てごしなはって(来てくださっての意)」
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