1.

2/8
前へ
/139ページ
次へ
ルイス・リードは苛立っていた。 今日は彼にとって、いつにも増して面倒な事ばかり降り掛かる日だった。 朝一番に離婚した妻の弟から車のローンの請求書がアパートに届き、シンクの配管が壊れて水漏れが起きた。 ブルックリン警察本部に出勤してからは、山のような報告書を片付けなければならず、外勤を相棒のデレクに任せ、ひたすら書類整理に終われながら、やっと昼食のホットドッグに有り付く。 しかしその途端、ズボンにケチャップが落ちた。 彼は、例え仲間の警官から拘束されようと大暴れしてやろうかと思ったが、いつものようにじっと耐え、紙ナプキンでケチャップを拭き取った。 そして今、腕時計は20時を示している。 時間を確かめるんじゃなかったと後悔したが、ルイスの腹は正直に鳴り、机の片隅に放置したインスタントコーヒーの残りを胃に流し込んで空腹を紛らわせた。 まだ、仕事は残っていた。 問題を起こした若者2人が留置所に監禁されていて、そのうち1人の調書を取らなければならなかったのだ。 本来なら、殺人課のルイスが受け持つ仕事ではなかったが、今日は人手不足だ。 ルイスは重い腰を上げ、眼鏡を掛け直して取調室に向かう。 扉を開けて中に入ると、若い男がぽつんと椅子に座っていた。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!

208人が本棚に入れています
本棚に追加