9.

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ハルはその日の午後、退院を許可された。 自宅アパートの現場検証は終了したが、部屋の中は惨憺たる有様だろう。 ハルは重い気分で着替えを済ませ、ふと窓の外に視線を移す。 外は雨が降っていた。 ハルの心は空模様の影響を受け、益々陰鬱となった。 彼を迎えに来たエドワードは、ハルの肩を抱いて言った。 「ハル、暫く私のマンションで過ごすといい。 部屋の片付けは、それからでも遅くないだろう?」 ハルは彼の申し出にほっとした。 今は一人になりたく無かった。 理由はノックスの手紙である。 ハルはポケットに手を伸ばし、折り畳んだ便箋にそっと指先で触れる。 …ノックスは死んだのだろうか? そう思うと、胸に悲しみが押し寄せて来た。 その時、ハルのスマホが鳴った。 エバンからの電話だ。 うんざりしながら電話に出ると、エバンが大声で言った。 「今夜はパーティーだよ! 子猫ちゃん!」 「俺は行けないよ。」 「焦らして楽しんでるな?」 陽気な声で言葉を返すエバンに、ハルは溜め息混じりに答えた。 「首を怪我して入院していたんだ。」 「何だって!」 エバンが悲鳴に近い声を上げる。 「今から見舞いに行くよ!」 「たった今、退院する所だ。 それじゃ、切るよ。」 「待て!ハル! 詳しく話しを…。」 しかし、ハルはそれを無視して通話を切った。

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