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実はみさきは一年前、事故に遭った。
飲酒運転の車にはねられたのだ。
奇跡的にも腕と脚の骨折だけで済んだのだが、事故のあとからたまに他の人には視えないものが視えるようになってしまった。
不思議と怖いという感覚はなかった。
今までに視た霊は、ぼんやりと人の形をしているだけだったが、今みさきの目の前にいる男子生徒は、普通の人のように色濃くハッキリと視えている。
――うそ…。まさか幽霊だったなんて…。
声をかけた事を後悔しても遅かった。
登校中の生徒達が、横断歩道の手前で独り言を言っているみさきを、不思議そうな目で見ている。
慌ててみさきは男子生徒の霊を連れて、路地に入った。
「キミ…幽霊なの?」
「分からねぇ…。オレ、気付いたらあそこに立ってたんだ。」
と、先ほどの横断歩道に視線を移す。
「自分が誰なのか分からねぇし、ここがどこかも分からねぇ。
人に声かけても完全シカトだし。」
そこで、コーヒーを買って落ち着こうと思い、コンビニに入ろうとしたら、ちょうど出てきた女性客が自分の体をすり抜けて行ったのだと、男子生徒は続けた。
「自動ドアのガラス見たらオレの姿うつってねぇし、わけわかんねぇよ」
男子生徒の霊には記憶がなかった。
みさきは内心、面倒な事になったと思った。
だが状況を知ってしまった以上放っておくことは出来ず、すぐに思い直した。
記憶を取り戻せたら成仏できるかもしれない――と。
そう容易くいくかは分からないが、男子生徒の記憶を取り戻す手伝いをしようとみさきは決めたのだった。
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