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ある新月の夜―――
普段は静かな闇に包まれる街から火の手が上がっていた。
ゆらめく炎に火の粉が混じった熱風、怒号が飛び交う中、
三人の人影が駆け抜ける。
―――はぁはぁっ
一人は鎧を纏った男性、もう一人は幼い子供。
最後に続くのは中年の女性。
誰もが息を切らしながら必死に走る。
だが、無常にも警笛が辺りに鳴り響いた。
「いたぞーーー」
「くっ、まずいな・・・。こっちだ。」
三人は近くの建物に身を潜める。
「悪いが、俺はここから先に行けなくなった。二人で逃げろ。」
「ですがっ」
「いいから行くんだ。後は事前に打ち合わせた通りだ。」
男は泣きじゃくる子供に目線を合わせ、優しく語りかける。
「両親を助けられなくてすまない。
だが君達は何としても生きてくれ。
あと君に託したいものがあるんだが・・・頼まれてくれるか?」
嗚咽で上手く言葉を発せないが、
それでも懸命にうなずく子供。
二、三言葉を交わし、血だらけの手で何かを子供に握らせる。
「頼む。」
それが男と交わした最後の言葉となった―――
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