第12章:貴方が愛した海ならば。

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僕は思わず「母さんっ」と彼女に駆け寄る。 優は ことの様子を、僕の背後で無表情で眺めている。…というか、ずっと濡れた髪の毛を気にしている模様。 僕はすみやかに、母さんの身体を抱き起こしながら、父さんを見上げた。 「父さん…何でそんなに帰って来るなり、怒ってるの?何で?どうしたの!?」 「おまえは口を挟むな」 父さんは息を荒げていた。母さんは泣きじゃくり続けていて、僕にしがみ付いてきた。 「母さんっ…大丈夫っ?」 「しっ、信じられないわ…、充と同じ年よ!こ、この男の子、とっ、父さんの子供ですって。子供ですって!しっ、信じられないわ!…充と同じ年よ!じっ、十年間以上も隠していたなんて!!」 わあぁーっと叫び声を上げながら、母さんは、ずっと扉にもたれて腕組みしている優を指差して、その場に泣き崩れた。 父さんは静まり、無言になる。僕も、無言になる。優は最初から、無言である。 僕は… 優を見ていた。
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