〈5〉 ミステリー研究会とシャーロッキアン達

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「緋色。ヨイショしたって、所見が覆るわけじゃない。遺体が発見された場所が特殊なだけで、溺死は溺死」 資料室の書棚を行ったり来たりする白衣姿の舞玖の後をスーツ姿の緋色が、年上の兄姉の後をせわしなく追う幼児のようにくっついて歩いているいる。 舞玖はまだギリギリ二十代だがいかにも学者肌、という言動のせいか年より落ち着いた風貌だ。背は決して小さい方ではないが、やせ形で180センチ越えの緋色と並ぶとかなり丸々として見える。 「他の場所で殺害された可能性はない?例えば下の空きフロア…いや、場所はどこだっていいんだけど…溺死を装うだけなら洗面器だってできる。で、タンクに放り込まれた、とか」 「ない。気管内の水の成分とタンク内の水の成分が錆の成分まで一致した。それに水に顔を押し付けられたら誰でも抵抗する。それらしい傷跡も拘束された痕もない」 「じゃ、例えば、眠らされたまま給水タンクに入れられた可能性は?」 「薬物やアルコール類その他も検出されず。つまり、昏睡、混濁、錯乱の可能性もなし。暴行の形跡なし。報告書読めよ」
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