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キッ、キッ、キッ、キッ……
あたしの急加速に合わせ、後ろの自転車も加速した…いや、明らかに追いつこうとしている。
振り返って相手の顔を確認する余裕もなく、あたしは必死でポプラの木立に向かって自転車を漕ぐ……サイクリングロードのカーブを全力で曲がった、と見せかけてあたしは木立とゲートボール場用具庫の間の細い通路に回り込んだ……、鋭角に近い角度を、我ながら神業的なハンドル裁きで。毎日ここを通る人でなければこの通路の存在は知らないだろう。
あたしは追跡者の姿を見てやろうと、用心しながら、サイクリングロードの方を振り返った。
その瞬間。
しゅっ、と目の前で何かが鋭く風を切った。
「きゃああっ!!」
あたしは身を隠していたのも忘れて叫んでしまい、自転車ごとガシャン、と尻餅を付いた。
同時に「ガコン」という鈍い金属の衝突音、そして今度は額に鈍い衝撃と鉄錆の匂いを感じた。
「!?」
さっきあたしの目に残像で残ったのは、黒い目出し帽から服装まで全て黒…、というどう見ても怪しい格好で古い自転車を一心不乱に漕ぐ人物と、彼が左手にかざした鉄パイプの先端だった。
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