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約束の2時が近付くにつれ、祖母だけでなく何故か千波までもがソワソワと落ち着かなくなってきた。
電撃のプロポーズから丸三日。
今日は陸が千波の祖母に結婚の挨拶をしに、わざわざ病院まで赴いてくれることになっている。
(………大丈夫。夢じゃない、夢じゃない)
昨夜陸から届いたメールを確認し、千波はふーっと息を吐き出した。
あれから夜寝て朝起きる度に、あのプロポーズは夢だったのじゃないかと疑っては、携帯を開き陸のアドレスを目にして安堵するということを繰り返している。
三日前まではお互いの携帯番号もメールアドレスも知らなかったというのに、今日は今から結婚の挨拶かと思うと、なんだか不思議でたまらなかった。
千波ですらそんな状態なのだから、祖母に至っては始めからまるでこの話を信じようとはしなかった。
千波達の年代はまだそれほどでもないが、町に住む祖母ぐらいの年齢層となると『五十嵐家』の名前は黄門様の印籠ほどの威力を発揮する。
祖母に陸と結婚すると報告した時は、良平と別れたショックで誇大妄想を引き起こしているのではないかと本気で心配したらしい。
気持ちはわからなくもないが、自分の孫をつかまえて何とも失礼な話だ。
「────ほんまに寝間着のままでええんやろか」
不安げに祖母が呟いたのを聞き、千波はハッと携帯から顔を上げた。
五十嵐家のお坊っちゃまがわざわざ挨拶に来てくれるのだから、本当はきちんと家でそれなりの格好をしてそれなりのもてなしをしたかったようなのだが。
それはかえって陸に気を遣わせることになるからと、千波はなんとか祖母を思いとどまらせたのだ。
「大丈夫やって。陸様はそういうこと気にする人とちゃうから。挨拶かって私が先に五十嵐家に行くって言ったのに、僕が嫁に貰う立場だからって言って、先にこっちに来てくれることになったんやし」
「………せやけどなぁ……」
「大体そういうこと気にする人やったら、私のことなんか選ぶ訳ないやん」
祖母の緊張を和らげようと最後は冗談混じりに言うと、祖母はチラリと千波を見てそっと苦笑した。
そうしておもむろにしわしわの手を伸ばし、よしよしと千波の頭を撫でた。
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