挨拶、各位。

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「………なんにしろ、あんたを選んでくれたんやったら、ええ人には違いないわな」 祖母の言葉にじぃんと胸が熱くなったその時、千波の手の中の携帯がブルブルと振動し始めた。 ドキッとして画面を開くと、陸からのメールだった。 千波はガタッとパイプ椅子を蹴って立ち上がる。 「り、陸様、着いたって」 「え。ほ、ほんまかいな」 「私、下まで迎えに行くから。おばあちゃん起きて待っててよ」 「わ、わかった」 わたわたと慌てふためきながら、祖母は手鏡を持って髪を撫で付け始めた。 弾む胸を押さえ、千波は病室を出る。 (……あー、ドキドキしてきた) 一階へ向かうエレベーターの中で、千波は大きく深呼吸した。 実はプロポーズされてから、陸と会うのは今日が初めてなのだ。 あれから何度も電話やメールはしていたが、やはり顔を合わせるのは特別だし何倍もドキドキする。 いつかは陸の傍にいても平気でいられる日なんて来るのかどうか、千波には想像もつかなかった。 「…………あ」 エレベーターを一歩出た瞬間、千波は思わず立ちすくんだ。 受付前の大きな丸い柱の前に、スーツを着た陸が静かに佇んでいるのが目に飛び込んできたからだ。   陸のほうもどこか緊張したような面持ちだったが、千波の姿に気付くと同時にふわっと柔らかい笑みを浮かべた。 千波に向かって軽く手を上げる。 「こんにちは」 「こ、こんにちは」 千波は早足で陸に歩み寄りながら、ぎこちない笑顔を作った。 スーツ姿の陸があまりにも眩しくて、くらくらと目眩を起こしそうだった。 「………わざわざスーツ、着てきてくださったんですね」 「そりゃ、正式に挨拶に来る訳だから」 少し照れたように、陸は頭を掻いた。 「初めてのことだからすごい緊張して。ついネットで作法とか色々調べてしまいました」 「……そんな。こちらこそ本来ならきちんと家に呼ぶべきやのに……」 「入院中なんだから仕方ないですよ」 陸は屈託なく笑ったが、直後少し疲れたように小さく息をついた。 「ただ、俺以上に母がものすごく張り切ってて…。今日もスーツからネクタイからうるさく口出ししてきて、失礼のないようにしっかりやってきなさいって思いっきり尻叩かれましたよ」 「………操様が?」 「はい。更には何故か家出る時は友美さんや初枝さん達まで見送りに出てきて、大騒ぎでした……」  
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