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思いがけない再会に、心臓が奇妙に弾んでいる。
狭い街なので、いつかはこういうこともあるかもしれないとは思っていたが。
別れてまだ2ヶ月足らず。
予想以上にこの日が早く訪れてしまった。
「仕事の帰りか?」
「………うん」
「そっか。……元気そうやな」
「……………」
千波の動揺が伝わったのか、良平はそっと苦笑する。
「……じゃあな。暗いから、気つけて帰れよ」
空気を読んだ良平は早々にその場を立ち去ろうと、一歩を踏み出した。
早足で坂を下り、千波の横を通り過ぎ際に軽く手を上げる。
「………………」
桜が積もっているせいか、遠ざかっていく足音が少し柔らかい。
それが妙に切なく耳に響き、千波はパッと後ろを振り返った。
「…………良平!」
とっさに呼び止めると、良平はピタッと立ち止まった。
びっくりしたような顔で、肩越しに千波を振り返る。
千波は唇を噛み締め、じっと良平を睨むように見つめた。
「びっくりした。……なんや?」
「う、うちにある良平の荷物……どうしたらいい?」
「え?」
良平は小さく眉を寄せ、体ごと千波に向き直った。
「荷物……って?」
「せやから……色々あるねん。着替えとか、本とか、CDとか」
「ふ。……そんなん、全部捨てたらええやんけ」
真面目やなぁ、と言って思わずのように良平は吹き出した。
それが心外で千波はムッと表情を険しくする。
「だってそんなん、勝手に捨てていいんかわからんかったし。……大事にしてたCDとかもあるし…」
「あー…、わかったわかった」
機嫌を悪くした千波の言葉を、良平は笑いながら手を上げて制した。
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