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「ほんなら今から、取りにいくわ。いるもんだけ持って帰るから、後は捨ててくれ」
「…………え」
一瞬千波は逡巡したが、いつまでも良平の荷物を家に置いている訳にもいかないので、考えた末に良平の言う通りにすることにした。
「…………………」
千波の家に向かって、二人は並んで歩き始める。
カラカラカラ…とタイヤのチェーンが回る音が寂しく畦道に響き渡った。
「一一一一結婚、決まったんやってな」
「………………」
「おめでとう」
沈黙を破って、良平が静かにそう切り出した。
千波は前を見つめたまま小さく頷く。
「知ってたんや」
「まあな。噂回るの早いし。……五十嵐家のことは、特に」
「……………」
「おかんから俺は聞いたんやけどな。千波ちゃんが五十嵐家の坊っちゃんと結婚するってどういうことやの!って、血相変えとったわ」
驚いた千波は真横にいる良平の顔を振り仰ぐ。
「別れたこと、言ってなかったん!?」
「………ああ。なんやうるさく言われそうでな。俺もまだ気持ちの整理ついてへんかったし、もうちょっとしてから話すつもりやったんや」
「…………………」
「あんな形で報告することになるとは思わんかったけど」
「………お母さん、なんて?」
「そらもう、発狂もんや。あんないいお嬢さん、もう他におらん!って言うて。……100パーセント結婚するって思ってたからな」
「………………」
自分のことをとても可愛がってくれていた良平の母のことを思い出し、千波は何とも言えない気持ちになった。
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