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陸がコーヒーを半分以上飲んだのを見計らってから、千波はおもむろに陸に向き直った。
「あの……陸様」
緊張気味に声をかけると、陸は不思議そうに千波を見つめた。
「はい?」
「あの。……昨日のことなんですけど」
それを聞いた陸の顔に、今度はサッと緊張が走る。
マグカップを置き、何故かあぐらをかいていた足を崩して正座になった。
二人は膝を付き合わせて向かい合う。
「昨日、結局早苗ちゃんをうちに泊めました。……そして、ゆっくり話をしました」
「……………」
「良平と別れたいきさつ、今の私にとって陸様が一番大事な人やってこと。……全部ちゃんと、話しました」
陸は黙って、千波の話を聞いていた。
昨日のことを思い出しながら話していると胸が熱くなってきて、千波はギュッと胸の前で手を握りしめた。
「陸様の言う通り、話したらちゃんとわかってくれました。……すごく辛い思いをさせてしまったけど」
「……………」
「でも、私にとって一番大事な人は陸様やから」
そこまで言うと、陸はふっと笑いながらポンと優しく千波の頭に手を乗せた。
まるで、わかったからもういいよ、と言っているような仕草だった。
「………うん。ありがとう」
一言だけそう言うと、陸はそのまま千波の体を引き寄せてギュッと胸に抱きしめた。
それは先程の不安げな抱擁ではなく。
安らぎと愛しさに満ちた、優しい抱擁だった。
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