挨拶、各位。(東京編)

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「あ、あの……」 「あー、いや、いいよ、答えなくて」 「……………」 「てゆーか、ごめん。聞きたくない」 千波の言葉を遮る勢いで、陸は矢継ぎ早に言葉を重ねた。 馬鹿な質問をしてしまったと、今更ながら後悔する。 5年も付き合った彼氏がいて、一緒に風呂に入ったことがないほうが珍しい。 ………わかっていても、胸が焦げる。 「……………」 陸は無言で千波の体をギュッと抱きしめた。 入浴剤に含まれているアロマの香りと、直に触れる千波の肌に、ぼーっと酔ったような感覚に陥る。 (あー…ヤバい。ムラムラしてきた……) 嫉妬と独占欲、そして単純に千波が欲しいという支配欲。 色んなものが身体中を突き抜け、陸の手が千波のバスタオルにかけられた。 「あ、あの……陸さん」 その時、弱々しい千波の声が聞こえて、陸はピタリと手を止めた。 ほんの少し、理性が戻ってくる。 「………何?」 腕の力を緩めると、千波はゆっくりと肩越しに陸を振り返った。 「すみません……私……のぼせそうです……」 「えっ?」 ギョッとした陸は慌てて千波の肩を掴んで体を引き離す。 見ると千波の体は全身真っ赤になってしまっていた。 恥ずかしさでそうなっているのかと思ったが、どうやらそれだけではなかったらしい。 「ご、ごめん!」 陸は千波の膝の下に手を入れ、そのまま横抱きにしてザバッと立ち上がった。  
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