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思いがけない言葉に、千波は脇に佇む陸の顔をパッと見上げた。
「海の、色?」
「うん。だから選ぶ時、青以外は考えられなかった」
「……………」
改めて千波は鏡に映る自分の姿を眺める。
こんなに豪奢なドレスは自分には似合わないと思ったが。
島の海の色だと言われたことで、スッと心が軽くなった自分がいた。
………そして、そんな風に想いを込めて陸がこのドレスを選んでくれたことが、たまらなく嬉しかった。
「………ありがとうございます、陸さん」
鏡の中の陸にそう言って微笑みかけると、陸は少し安堵したように肩の力を抜いた。
「お気に召した?」
「もちろんです。……すごく嬉しいです」
ほんのりと赤く顔を上気させた千波の体をそっと引き寄せ、陸は軽く千波の頭に唇を寄せた。
「よかった」
「………はい」
「じゃあ、そろそろ時間だから着替えて。……俺も向こうで着替えてくるから」
そう言うと陸は、自分の着替えを持って奥の部屋へと向かった。
それを見送ってから、千波は手にしていたドレスをそっとベッドに置く。
そうして先に髪のセットに取りかかった。
(うわぁ……なんかめっちゃ緊張してきた……)
メイクも終え、ドレスに袖を通した千波は、にわかにざわつき始めた胸をそっと押さえ込んだ。
証や柚子と久しぶりに会うことは楽しみだが、ドレスコードのあるレストランなんかで食事をするのは生まれて初めてだ。
(粗相して、陸さんに恥かかしたらあかんなぁ……)
最後に左の薬指に婚約指輪を嵌めながら、千波はキュッと唇を噛み締めた。
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