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「千波。入っていい?」
奥の部屋から窺うように声をかけられ、千波はハッとそちらを振り返った。
「は、はい! どうぞ」
上擦った声で返事をすると、ダブルのスーツに身を包んだ陸がゆっくりと部屋に入ってきた。
メイクもしてすっかり変身した千波を見て、陸は眩しそうに目を細める。
面映ゆさと、陸の凛々しい姿に千波は目眩がしそうだった。
「……びっくりした。想像以上に綺麗だった」
千波の元まで歩いてきた陸は、千波の顔を見下ろしながらはにかんだように微笑んだ。
恥ずかしさで、千波はつい俯いてしまう。
「そ、そんなことないです」
「顔上げて」
目を伏せてしまった千波の顎に指をかけて、陸はクイと顔を仰向かせた。
「ホントに綺麗だから。自信持って」
「……………」
「髪、可愛いね」
丁寧に編み込まれた前髪に触れながら、陸はニコッと笑った。
普段通りの陸の様子に、昂揚していた気持ちが少しずつ落ち着きを取り戻す。
「やっぱり器用だね、千波は」
「あ、ありがとうございます……」
「ホントに可愛い。早く証に会わせて自慢したい」
手放しに誉めちぎられ、千波の頬がうっすらと紅潮する。
それを見た陸はクスッと笑い、おもむろに千波に手を差し伸べた。
「それじゃあ、行こうか」
まるで王子様のような陸の仕草に、千波の胸が甘く高鳴る。
ドキドキしながら陸の顔を見上げると、陸はもう一度穏やかに微笑んだ。
「…………はい」
応えるように微笑み返し、千波はゆっくりと陸の手に自身の手を乗せた。
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