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「悪い。待ったか?」
そう言いながら部屋に入ってきたのは、半年ぶりに会う証だった。
ダブルのスーツを上品に着こなし、指先からも滲み出るような圧倒的なセレブ臭に、千波は目を見張る。
島で会った時はそれほどでもなかったのに、やはり然るべき場所で会うと証の存在感は周りを逸脱していた。
その後ろを、赤いドレスに身を包んだ柚子が続く。
こちらは堂々としている証とは対照的に、どこか遠慮がちで所在なさげだった。
「いえ。俺達も今来たばかりです」
陸は証に向かってにっこりと笑いかける。
証はそれに微笑で応えてから、千波に向かって軽く頭を下げた。
「こんばんは。ご無沙汰しています、千波さん」
「こ、こんばんは。ご無沙汰しています」
焦りながら、千波はその場で深々と頭を下げた。
証は陸の向かいに座り、千波の向かいには柚子が座ることとなった。
「五十嵐さん、千波さん、こんばんは。ご無沙汰しています」
柚子は少し上気した顔で、緊張気味にそう言った。
もしかしたら千波と同じで、あまりこういう場には慣れていないのかもしれない。
「こんばんは、柚子さん。今日はわざわざお呼び立てしてすみませんでした」
「い、いえ! そんな」
陸に優しく声をかけられ、柚子は恐縮したように手を振る。
その仕草もやはり可愛らしくて、千波は少し複雑な気分に襲われてしまった。
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