挨拶、各位。(東京編)

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陸が、もう完全に柚子のことを吹っ切っているのはわかっている。 けれど、かつて狂おしい程に柚子に恋をしていたこともまた知っているから。 軽い嫉妬のような気持ちを覚えてしまうのは、仕方がないことのように思えた。 あれこれ考え込んでいる間に、いつの間にか食前酒が運ばれてきて、千波は慌ててモヤモヤした気持ちを振り払った。 ロゼの入ったグラスを証が手に取ろうとしたので、陸はそれを遮るように口を開いた。 「すみません。乾杯の前にちょっと報告したいことがあるんですが」 陸の言葉に、証は手を止める。 証と柚子は同様に、不思議そうな視線を陸に向けた。 「………報告?」 「はい」 頷いた後、陸は穏やかに千波を見つめた。 いよいよ結婚の報告を二人にするのだと悟り、千波は体を強張らせる。 千波の緊張が伝わったのか、陸は微笑みながらテーブルの下で千波の手をやんわりと握りしめた。 「俺達、結婚することになりました」 そう言った口調は穏やかだったが、陸の手の力は微かに強さを増したように千波は感じた。 証と柚子は、同時に大きく瞠目して陸の顔を真っ直ぐに見返した。 「………え。……結婚?」 「はい」 頷き、陸は同意を求めるように千波に微笑みかける。 千波はゆっくりと頷いた後、証と柚子に視線を戻した。 「………はい」 力強く答えると、陸は静かに千波から手を離した。  
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