挨拶、各位。(東京編)

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「えっ……と……」 惚けたように呟いた後、証はチラッと柚子に目を向けた。 二人はしばらく無言で視線を見交わせ、そのまま同時に陸をマジマジと見つめた。 二人の反応を見て、陸は思わずプッと吹き出した。 「おめでとうって、言ってくれないんですか?」 その言葉に、二人はハッと体を震わせる。 慌てて姿勢を正し、証は陸に向き直った。 「………悪い。……なんか、早いからびっくりして」 「そうですか? 俺、もう今年で28ですよ?」 「年齢のことじゃねーよ」 証はフーッと大きく息を吐き出しながら、ガシガシと頭を掻きむしった。 せっかく綺麗にセットしていた髪がくしゃくしゃになり、証の激しい動揺が伝わってくる。 「お前、まだ島に行ってから一年じゃん」 「まあ、そうですね」 「それに、付き合ってからだとまだ半年とかそれぐらいだろ」 その言葉を受け、陸は意味ありげな視線を千波に向けてクスッと小さく笑みを零した。 その意味を理解し、千波は何とも言えない気持ちになる。 実際はまだ付き合って一ヶ月だと言ったら、二人はどんな反応をするだろうか。 「まぁお互いに適齢期ですしね。気持ちが重なったら、早いも遅いもないんじゃないですか」 「………そりゃまあ、そうだけど」 もっともな陸の言葉に、証はまだ動揺した様子で頭を掻いていたが。 一つ深呼吸をしてから、おもむろにグラスを手にして軽くそれを持ち上げた。  
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