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それからもほとんど陸と証が話をしていて、内容のわからない千波はほぼ聞き役に徹していた。
加えて、聞いたこともないような豪華な料理が次々に運ばれてきて、使い慣れないナイフとフォークに悪戦苦闘する。
見ると、向かいに座る柚子も同じなのか、ふとした瞬間に何度か目が合い、二人は苦笑のように微笑み合った。
「それ、婚約指輪ですか?」
デザートも食べ終わり、食後のコーヒーに口をつけていると。
柚子が目をキラキラさせながらそう聞いてきた。
男性陣は煙草を吸いに、テラスに出てしまっている。
「え、あ……はい」
カップを受け皿に戻し、千波は左手の薬指に目を落とす。
柚子はぐうっと身を乗り出し、興味深げにじっと指輪に見入った。
「……素敵。……綺麗」
ほうっと吐息混じりに呟き、柚子はワインで少し赤くなった顔に満面の笑みを浮かべた。
「千波さんによく似合ってますね。五十嵐さんが選んだんですか?」
「はい。……でも」
千波はチラリとテラスに立って証と談笑している陸に目を向けた。
「未だに、信じられないんです。私なんかが……陸さんの相手でいいんかなって」
「え?」
「私、ホンマにただの田舎者やから。……こんな指輪も、ドレスも、豪華なお料理も全然似合わなくて。……陸さんに釣り合ってない気がして……」
すると、柚子の顔がふと真顔になった。
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