挨拶、各位。(東京編)

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「千波さん、私と同じですね」 「………え?」 軽く問い返すと、柚子はハッと口元に手を置いた。 「あ、気分悪くしたならごめんなさい!」 「え。いえ、全然……」 千波が手を振ると、柚子は少し安堵したように小さく笑った。 先程の千波のように、テラスにいる証にチラリと目を向ける。 「私も始めは、証と全然釣り合わないから、身を引こうと思ってたんです」 「………え。でも柚子さん、元々はセレブ…だったんですよね」 失礼になりはしないかと慎重に言葉を選びながら聞いたが、柚子は意に介さない様子で苦い笑みを浮かべた。 「そんなの、小学校に上がるまでの話で、記憶だってほとんどないですよ」 「………はぁ」 「もう貧乏がすっかり染み付いちゃって、私だってこういう場所ホンットに苦手なんです」 声を潜めて言う柚子が可笑しくて、千波はつい笑いを誘われた。 それと同時に、柚子に対しての小さなわだかまりがゆっくりと消えていく。 飾らない柚子が好印象で、陸が柚子を好きになったのもよくわかる気がした。 「でも、母にも言われたんですけど、私はこの人に選ばれたんだって、堂々としてればいいって」 「……………」 「卑屈になって俯いてるほうがよっぽどみっともないって」 柚子の言葉に、千波はハッとする。 陸と付き合ってからの自分に全てが当てはまっていて、心を抉られたような気持ちになった。  
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