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「天気、悪いね」
ホテルに向かって歩き始めてすぐ、陸は空を見上げながらポツリと呟いた。
千波はつられて空を見上げる。
「はい。今にも降ってきそうですね」
「ここでは、雨の予報はできない?」
「え?」
「言ってたよね。島では雨が降るのがわかるって」
「………あ」
海から香る潮の香りで雨が降るかどうかわかると陸に話したことがあるのを、千波はぼんやりと思い返した。
「無理ですよ、こんな都会で。私、気象予報士と違いますよ?」
「はは、だよね」
軽快に陸が笑ったその時。
ポツッと千波の足元に雨粒が落ちてきた。
一つ、二つと空から落ちてきたそれは、二人が歩く道の色を少しずつ変えていく。
「ヤバ、降ってきた!」
陸は繋いでいた千波の手をギュッと握り、慌てたように千波を振り返った。
「あと1分ぐらいなんだ。走れる?」
「は、はい!」
大きく返事をし、千波は陸に手を引かれてホテルまでの道を走り始めた。
「………あー、最悪」
ホテルのエレベーターの中で、陸は溜め息をこぼしながらそう呟いた。
しっとりと濡れそぼった髪を、忌々しげに掻き上げる。
結局あと少しでホテルに着くという段になって、二人は急に降ってきた豪雨に遭遇する羽目になってしまった。
このホテルは成瀬グループ系列のホテルで、陸が成瀬の縁者だと聞かされていたフロントはずぶ濡れの二人を見てかなり驚いた様子だった。
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