挨拶、各位。(東京編)

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(う……わあ……) 部屋に一歩入った千波は、そのあまりの豪奢ぶりに思わず気後れしてその場で立ちすくんだ。 成瀬グループのホテルでしかもスイートだと聞いていたので、ある程度の覚悟はしていたのだが、田舎者の予想を遥かに上回る絢爛ぶりだった。 (あ、あかん…。目がチカチカする……) シャンデリアの目映さに立ち眩みしている千波とは対照的に、陸は慣れた様子でバスルームへと向かった。 「千波」 名を呼ばれて、千波はようやく我に返る。 それと同時に4月の雨の冷たさが急激に身体中を襲い、千波はくしゅんと小さくくしゃみをした。 「大丈夫?」 それが聞こえたのか、陸は慌ててバスルームから顔を覗かせた。 「は、はい」 「取り敢えず荷物だけ置いて、早くおいで」 「…………え?」 バスルームから手招く陸を、千波はポカンと見つめ返す。 「今お湯溜めてるから、一緒に入ろ」 「……………」 「早く。風邪ひくから」 陸の言葉の意味を理解した千波は、カアッと顔を赤らめて勢いよく首と両手を同時に振った。 「い、いえっ! 私は陸さんの後でいいですからっ!」 「ダメだよ、風邪引く」 「平気ですっ! 体だけは丈夫なんでっ!」 「くしゃみしてたくせに何言ってんの」 呆れたように言い、陸はバスルームから出て千波の手首を掴んだ。 「ほら、こんなに冷たい」 「で、でも、一緒にお風呂なんて…」 「何今さら恥ずかしがってんの。もう全部見てるのに」 「それとこれとは別ですーーっ!!」 必死の抵抗も空しく、千波はそのままズルズルと陸にバスルームへと引きずられて行った。  
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