挨拶、各位。(東京編)

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「………なんでそんなに恥ずかしがるかなぁ」 胸元まできっちりバスタオルを巻いて浴槽の隅で縮こまっている千波を見て、陸はしみじみと溜め息をついた。 備え付けのアメニティグッズの中に白濁になる入浴剤があるというのに、千波は裸で入ることを頑として拒んだのだ。 同じ湯船に入っているというのに浴槽の隅と隅に座り込んで、味気ないことこの上ない。 「………ホンっトに頑固だよね」 「だって…っ、あ、明るいし……」 先程までの青白い顔はどこへやら、今の千波は耳まで赤く染まってしまっていた。 陸はふっと笑い、肩をすくめる。 「いいよ、後でベッドでゆっくり見るから」 「………なっ」 「電気煌々と付けて、隅々までじっくり見る」 「~~~~~っ」 絶句して口をパクパクさせた千波が可笑しく、陸は笑いながら千波の腕を引いた。 「それが嫌なら、観念する」 「…………あっ」 抵抗する間もなく、千波はあっという間に背後から陸に抱きしめられる形になった。 突然、素肌が触れ、千波の心臓がひっくり返る。 「り、り、り、陸さ……」 「どもりすぎ」 プッと吹き出すと、陸の目の前にあった千波のうなじが、ゆでダコのように真っ赤になってしまった。 それを見た陸は目を丸くする。 「そんなに恥ずかしい? ……もしかして、一緒にお風呂とか入るの初めて?」 「…………っ!」 千波の体が固く強ばったのを感じ、陸は慌てて口を噤んだ。 しまった、と己の失言を内心で舌打ちする。  
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