想うは、あなた一人。

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圭子から指定されたファミレスは、土曜日ということもあってなかなかの混み具合だった。 店内はクーラーがよく効いていて、汗ばんだ体をヒンヤリと撫でる。 煩い程に鳴いていた蝉の声も、店の中まで追いかけてくることはなかった。 (圭ちゃん……まだみたいやな……) ざっと店内を見渡した千波は、額の汗をハンカチで拭いながらレジ前のソファーに座った。 世間は8月に突入し、夏真っ盛りである。 陸が役所に勤め始めてから、はや4ヶ月が経とうとしていた。 「ごめん千波! お待たせ!」 息を切らしながら店内に駆け込んできた圭子を見て、千波は思わず目を丸くした。 涼しげなチュニックの袖から覗く腕が、真っ黒に日焼けしていたからだ。 「焼けたねぇ、圭ちゃん……」 「ふふ、まぁね」 「この年でチャレンジャーやなぁ。シミとか怖くない?」 「せっかくの新婚旅行で、しかもハワイでそんなこと言ってたらしょーもないやんか」 明るく笑い、圭子は白い歯を見せてにっこり笑った。  
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