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「え?」
「江崎さん家って、西町ですよね? 海岸のほう」
「……うん、そうやけど」
「俺、東町やから方向同じやし」
その言葉を受け、千波はもう一度そこからの景色を眺めた。
降りしきる雨粒は、アスファルトを抉る勢いで叩き付けている。
自転車で帰るなんてもってのほか。
バスも、次のダイヤまではかなり時間がある。
同じ方向なら、甘えてしまっても構わないだろうか…。
「……うん。……ほんなら、乗せてもらってもいいですか?」
「いいですよ。その代わり……」
川上はそこで一旦言葉を止め、千波の持っている傘に目を向けた。
「車んとこまで、傘に入れてもらっていいですか?」
「…………え」
「いやー、朝は降ってなかったから、傘持ってけぇへんかったんすよ」
バツが悪そうに頭を掻いた川上がまるで小学生男子のようで、千波はぷっと吹き出してしまった。
「はい、どうぞ」
「………すいません」
開いた傘を頭上にかざすと、川上はペコンと頭を下げて傘の中に入ってきた。
二人は並んで駐車場に向かって歩き始める。
屋根つきの駐車場にたどり着いた時には、雨の激しさのせいでお互いの肩はしっとりと濡れそぼっていた。
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