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「うわぁ、最悪。びっちょびちょ」
「ホンマ。ゲリラ豪雨ってやつやなぁ」
千波はハンドタオルで軽く濡れた部分を拭く。
そのあとで、それを川上に差し出した。
「あ、すいません」
「いえ。でも、濡れたまま乗っても大丈夫ですか? 傘もびちょびちょやし……」
「ああ、平気っすよ。気にせずにどーぞ」
体についた水分を拭き取り、川上はハンドタオルを千波に返した。
そうして車の鍵を開ける。
ガチャ、とロックの外れる音を聞いてから、ドアノブに手を掛けようとした、その時だった。
「千波」
背後から声をかけられ、千波はパッと声のしたほうを振り返った。
声の主を目にした千波は、大きく目を見張る。
「………り、陸さん……」
少し離れた場所で静かに佇みじっとこちらを見ていたのは、なんと陸だった。
何故ここに陸がいるのか状況を把握できず、千波はぼんやりと陸の顔を見つめる。
「な、なんでここに……」
喘ぐように呟くと、陸はスッと表情を険しくした。
「雨が酷かったから、帰りに寄ったんだ。困ってるんじゃないかと思って」
「………え」
「でも、必要なかったかな」
感情を押し殺したような陸の声を聞き、千波はハッとする。
ここにきてようやく、陸が怒っていることに気が付いた。
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