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陸はゆっくりと頷き、しっかりと陽菜を左手で抱き上げる。
陽菜はまたも嬉しそうに、陸の首にきゅっとしがみついた。
「うん。帰ろっか」
そう言うと、陸は右手を千波に向かって差し出した。
陽菜が生まれてから久しく手を繋いだことなどなかったので、千波は軽く面食らう。
「手、繋ごう」
優しい笑顔の陸を見た千波は、少し戸惑いながらも差し出された手をぎゅっと握った。
陸はその手を、強く握り返す。
何だか嬉しくなり、千波は横を歩く陸の顔を見上げた。
「なぁ、陸さん」
「ん?」
「二人目はやっぱり、男の子がいい?」
問うと、陸はうーん、と言って少し首を傾げた。
チラッと、眠そうにうとうとし始めた陽菜の顔を見つめる。
「………そう、だな。元気に生まれてきてくれたら、どっちでもいいかな」
そこで陸は、次に千波を見下ろした。
「千波もそうだろ?」
夕焼け色に染まった陸の笑顔を見て、千波は小さく笑って頷いた。
「………うん。……そうやな」
陸がいて。
陽菜がいて。
お腹の子が元気に生まれてきてくれて。
ここでみんなずっと一緒にいられるなら、何も言うことはない。
これ以上の幸せは、何もない。
陸への愛しさが込み上げてきて、思わず恋人繋ぎにして指を絡ませると。
陸はクスクスと笑いながらも、それに応えてきゅっと手を握り返してきた。
夕陽に赤く染まった砂浜に、3人の影がどこまでも長く、伸びていた。
一 終 一
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