大地と、陽菜。

6/28
1321人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
「………大ちゃん?」 黙り込んでしまった俺を、陽菜はキョトンとしたように見つめてくる。 俺は無言で、その顔を見つめ返した。 (………千波さんに、似てきたよなー) 仕草や言動こそ幼いが、やはりもう高校3年生。 時たまハッとするぐらい、綺麗になったな、と思うことがある。 何よりタチが悪いのが、年々千波さんに似てくることだ。 (………さすがに、幻滅されるのは嫌やなー…) 何だか複雑な気持ちに襲われた、その時。 「陽菜ー!」 廊下の奥辺りから、陽菜を呼ぶ声が聞こえてきた。 途端に陽菜は、決まり悪げに顔をしかめる。 「ヤバ、お母さんや!」 そう言うやいなや、陽菜はヒョイとベッドから飛び降りた。 タタタ、とドアまで小走りで駆け、そこで一度俺を振り返った。 「ほんなら大ちゃん、またね」 ヒラヒラっと軽やかに手を振り、陽菜はドアを開けて部屋を出ていく。 直後、ドアの向こうから千波さんの声が響いた。 「ホンマにあんたは、隙を見つけたら大地君のとこに来て! あかんでしょう、大地君も仕事で疲れてるんやから!」 「………私の顔見たら、疲れも吹き飛ぶと思って」 「何をアホなこと言うてんの!」 ピシャリと陽菜を叱り付けた後、どこか遠慮がちにドアをノックされた。  
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!