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「………大ちゃん?」
黙り込んでしまった俺を、陽菜はキョトンとしたように見つめてくる。
俺は無言で、その顔を見つめ返した。
(………千波さんに、似てきたよなー)
仕草や言動こそ幼いが、やはりもう高校3年生。
時たまハッとするぐらい、綺麗になったな、と思うことがある。
何よりタチが悪いのが、年々千波さんに似てくることだ。
(………さすがに、幻滅されるのは嫌やなー…)
何だか複雑な気持ちに襲われた、その時。
「陽菜ー!」
廊下の奥辺りから、陽菜を呼ぶ声が聞こえてきた。
途端に陽菜は、決まり悪げに顔をしかめる。
「ヤバ、お母さんや!」
そう言うやいなや、陽菜はヒョイとベッドから飛び降りた。
タタタ、とドアまで小走りで駆け、そこで一度俺を振り返った。
「ほんなら大ちゃん、またね」
ヒラヒラっと軽やかに手を振り、陽菜はドアを開けて部屋を出ていく。
直後、ドアの向こうから千波さんの声が響いた。
「ホンマにあんたは、隙を見つけたら大地君のとこに来て! あかんでしょう、大地君も仕事で疲れてるんやから!」
「………私の顔見たら、疲れも吹き飛ぶと思って」
「何をアホなこと言うてんの!」
ピシャリと陽菜を叱り付けた後、どこか遠慮がちにドアをノックされた。
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