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「………いつもゴメンね、大地君」
「いや、全然平気です」
「遠慮せんと怒ってくれてええからね」
ドア越しに短い会話を交わした後、お疲れ様という言葉を残して二人の気配がドアの前から消えた。
ようやく陽菜から解放された俺は、どっと疲れを覚えて再びベッドに横になる。
「…………はぁ」
天井を見つめながら、思わず大きな溜め息が零れた。
さっきの一連の流れを思い出して、何故か俺は酷くアンニュイな気分になった。
実はここだけの話、千波さんは俺の初恋の人だったりする。
まだ俺がガキで、千波さんがうちでお手伝いさんとして働いていた頃。
綺麗で優しいお姉さんを、俺は無邪気に慕っていた。
もっとも初恋といっても憧れみたいなもので。
当時から陸兄ちゃんとそういう関係だってバレバレだったし、結婚が決まった時も素直に嬉しかった。
………だから余計に、今の陽菜とその頃の俺が重なって見えて。
一番近くにいる年上の異性に好意を持つなんて、子供の頃の一種の病気だと俺は思っている。
一過性の、ハシカにかかったみたいなものだ。
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