Chapitre 0

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サイレンが響いた。 赤いリボンが宙を舞って、色とりどりの花びらが視界をいっぱいに埋めつくした。 桃色、黄色、水色、白……。 そして赤。 降りそそぐ花々の中を、ひらりひらりとただよって飛んでゆくリボン。 サイレンの音がだんだん遠くなり、水の中にいるみたいにぼやけていく。 スローモーションのようにゆっくりして見える、夢のようにうつくしい光景。 それを、かなこは床に這いつくばって、呆然と見ていた。 片方だけほどけたみつあみが、はらはら広がって、頬にかかる。 「うそ…だって…」 右側には、教室。 左側にはならんだ窓。 見慣れた風景。いつもの学校の廊下。 そして舞い散る花の中、向こう側に立っている人物が、リボンを手に取った。 微笑み。 いつもと変わらないはずのその姿。 ここまでは、夢の続きのよう。 だけど……。 ガチャン。 無機質な金属音が、おもたげに響いた。 廊下の向こうから、白昼夢のような世界にまるで似つかわしくない、血まみれのロボットがあらわれた。 リボン片手にかなこを見下ろす人物の笑みが、すっと消える。 夢の終り。 「なん……で……」 ロボットが近づいてくる。だけど、擦りむいた膝が痛くて、動けない。逃げられない。 信じてたのに。 かなこはふるえながら腕を伸ばしたが、冷たい視線が返されるだけ。 目の前まで接近したロボットのアームが、ぐわっと振り下ろされる。 死ぬんだ。今度こそ。 もう、奇跡は起きない。 それでも。 かなこはきつく目を閉じた。 すると、今までの思い出が、走馬灯のようによみがえってきた――。
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