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サイレンが響いた。
赤いリボンが宙を舞って、色とりどりの花びらが視界をいっぱいに埋めつくした。
桃色、黄色、水色、白……。
そして赤。
降りそそぐ花々の中を、ひらりひらりとただよって飛んでゆくリボン。
サイレンの音がだんだん遠くなり、水の中にいるみたいにぼやけていく。
スローモーションのようにゆっくりして見える、夢のようにうつくしい光景。
それを、かなこは床に這いつくばって、呆然と見ていた。
片方だけほどけたみつあみが、はらはら広がって、頬にかかる。
「うそ…だって…」
右側には、教室。
左側にはならんだ窓。
見慣れた風景。いつもの学校の廊下。
そして舞い散る花の中、向こう側に立っている人物が、リボンを手に取った。
微笑み。
いつもと変わらないはずのその姿。
ここまでは、夢の続きのよう。
だけど……。
ガチャン。
無機質な金属音が、おもたげに響いた。
廊下の向こうから、白昼夢のような世界にまるで似つかわしくない、血まみれのロボットがあらわれた。
リボン片手にかなこを見下ろす人物の笑みが、すっと消える。
夢の終り。
「なん……で……」
ロボットが近づいてくる。だけど、擦りむいた膝が痛くて、動けない。逃げられない。
信じてたのに。
かなこはふるえながら腕を伸ばしたが、冷たい視線が返されるだけ。
目の前まで接近したロボットのアームが、ぐわっと振り下ろされる。
死ぬんだ。今度こそ。
もう、奇跡は起きない。
それでも。
かなこはきつく目を閉じた。
すると、今までの思い出が、走馬灯のようによみがえってきた――。
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