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「…かな、解けた?」
視線に気づいたのか、顔を上げたツカサが、口パクで聞いてきた。
わたしは首を振って、「さいご」と口パクし、腕でバツ。
すると彼はふっと笑って、ゆっくりと口を動かし始めた。
どうやらヒントをくれるらしい。
彼の口元を真剣に見つめる。
――「さ」?
さ、ん、ぜ、ん、か、が、や、く…………
エジプト文明!
燦然輝くエジプト文明、紀元前3000年!
ってこれ、問1の答えじゃん!
「ばかっ! ひどい!!」
思わず身を乗り出して叫ぶと、静まり返っていた教室中に、わたしの声が響いた。
みんないっせいにこっちを見る。
や、やっちゃった…!
「おーい如月、バカなのはおまえだぞー」
世界史の桐谷先生がだるそうにそう言うと、みんなが笑う。
うう、恥ずかしい…。
ツカサも笑ってるし!
さっきまで教壇の上の回転いすで退屈そうにくるくるしてたくせに、桐谷先生はそのまま立ち上がって、「ハイ終了ー」と声を上げた。
「あと3分ありますけど!」という生徒の指摘を無視して先生が端末を操作すると、全員のタブレットがブラックアウトする。
「文句なら如月に言えー」
そ、そんな! あんまりだ!
明るい茶髪に着崩したシャツの桐谷先生は、よく言えば親しみやすくて生徒に人気があるけど、悪く言えば適当でだるがりで、チャラい。
先生は黒縁めがねのツルをくいっと上げてから、スクリーンに今日の単元を投影し始めた。
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