プロローグ

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 だがそれも無理からぬこと。落雷が雷球となり、その中から人が現れるなど自然現象ではありえない。刻印術によるものと判断する方がずっと常識的だ。  現れたのは男だった。黒い髪をした、子供の見たことがない外見の男だった。黒いコートを羽織り、仰向けになっている。  轟音を聞きつけたらしい衛兵達が金属音喧しく駆けつけてくる音を聞きながら、子供は警戒心も抱かずにその男を凝視する。  硬そうに軽く跳ねた黒い髪。自分とは違う、やや暖色の肌。見かけない黒いコート。そして何より、そのコートと下に着ているシャツを通り越し、筋肉のついた胸に付けられたX字の傷。  ドクドクと血が溢れ出し、地面の草花に要らぬ養分を注がせる、渋面で目を閉じているそれを子供はじっと見つめていた。
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