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この国に対して愛着がなかったわけではない。異国の者として冷たいで見られ石を投げられたこともあったが、今ではアシエスの侍女としてこの国に受け入れられている。一部の人間はそれでも疎ましく思ってはいたようだが、大勢の人間が認めてくれた。死んでもいいと思って訪れた国によって救われた。可能なことならばこの国を護りたい。だが不可能だ。例えどれだけの人間を相手にしても負ける気はないが護ることはできない。勝つことはできても護れない。だから選ばなければならないのだ。アシエスだけを。
この国で最も最初にイオンを受け入れ、イオンを頼り、イオンの心を救った少女を。
決意を固め、目を閉じて心を鎮めて報告を待つ。
「国王、並びに将軍スタニスラス、ユベール、イッポリート、神官アナクレト、ロイクが死亡」
やはりか。早馬が戦場を発ったのは残ったユーゴ将軍の命か。ユーゴ将軍はスタニスラス将軍達に比べて少々血の気が多く先陣を切って戦に臨むところがある。唯一の生き残りが彼だというのは失礼ながら予想外だが、一対一での勝負ではスタニスラス将軍よりも上だったことを鑑みればあり得なくはないのかもしれない。
「兵の被害、およそ二千」
この時点で疑問に思った。六千の軍であったはずのルミーラ軍が四千も残っていながら、どうして国王や神官までもが死んでいるのだろう。将軍は前線に立つ者もいるが、前者は軍の最後尾まで下がっているはずだ。とても兵達より先に死ぬとは思えない。まさか兵が逃げ出したのかとも考えるが、そもそも負け戦だとわかっていながら挑んだのだ、そのような腰抜けがいようはずもない。
そこで最も嫌な答えが導き出される。
軍の最後尾ということはルミーラ国側からは相当に手薄となっている。そしてモルクル人のあの脱走者が逃げた方角は東。つまり戦場と同じ。徒手で見張りの武器を奪い、刻印術で空を飛び、方法はわからないがあの格子から逃げ出すことも可能な優秀な戦士ならば国王を守護するために残っていた将軍達を倒すことも不可能ではないかもしれない。
先陣を切ったからこそユーゴ将軍は残ったのか?
兵が王を見捨てたのではなく、兵が護りきることができずに王が死んだのではないか?
「まさか……!」
驚愕と共に目を見開きセドリック神官を見る。セドリック神官は強張った表情と険しい目付きでイオンを見返しながら告げた。
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