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今の国の状況を考えれば悪くないかもしれない。そう考えイオンがセドリックを盗み見ると、同じように考えているのか一人何度か頷いた後にピールを見た。
「わかりました。では、お疲れでしょうが準備ができ次第会議室へお願いします」
「ありがとうございます」
一礼して馬を衛兵に預けると城内へ入っていく。その後姿を見送ってからイオンとセドリックも中へ入り、戦地を駆けて来た騎士達とは違う通路を通って上階へ上がる。
「早馬の話では、あの者が刻印術を用いて遠方の術兵を殲滅し、続けて近くの丘を粉砕して見せたとか……報告を疑うわけではありませんが、些か信じがたいですね。無論、刻印術を扱えない私の感覚では推し測れないものではありますが」
「はい……ですが仮にそれが本当だとしたら、いったいどれだけのマナを扱えるのか……」
「失礼でなければお教え願いたいのですが、イオン殿であれば可能でしょうか?」
戦場となった場所の近くにはそれなりに大きな丘がある。その程度のサイズであれば容易に爆破は可能だが、これまでの経験を踏まえ、
「規模にもよりますね」
曖昧に答えることにした。
「とは言え、あの方の力が相当なものであることは確かです。そもそも飛行刻印術を扱うことも難しいものですから」
「なるほど。彼のこれまでの経緯やどうして城へ現れたのかを聞くことができれば、彼の処遇について一考する余地もできますね」
「え……」
やや目を見開くと中年の神官は微笑む。
「姫様がご執心の方です。イオン殿も助けたいとお思いだということは、少し考えればわかることですよ」
「恐れ入ります」
「あはは。私がもう十年若ければあの少年に嫉妬をしていたかもしれませんね。さて、私は先に会議室へ向かおうと思いますが、イオン殿は?」
「わたくしは一度アシエス様の下へ。あの殿方が戻られたことをお伝えしなければなりませんから」
わかりましたと答えてセドリックはイオンと別れる。イオンは階段をさらに上がり、いつも通り結界を張った扉の前に到着し、小さく深呼吸をした。
(裏切っていなかったのですね……)
アシエスに対してついた嘘が嘘ではなくなった。アシエスの望んだ形で帰ってきてくれた。
自分自身も彼の帰還を喜んでいることを無自覚に押しやりアシエスのことを考える。
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