第二話~所在無き心が揺らぎをもたらす~

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「セドリック神官は元から城内にいたのだから、それよりも早く来いとは言わぬ。百人隊長であるピールが我々の中で最も早く来るのは当然だが、あの長い列の中で殿を務めていながら素早く参じたのは素晴らしいことだ。イオン殿は姫殿下の様子を見に行かれたのだから仕方なかろう。……それで貴様は何をしていた? 一人湯浴みでもしていたのか」  上将軍という肩書きは伊達ではなく、その声音と眼光はひどく鋭い。気圧されたエディたじたじと一歩下がる。 「そもそもこの国は勝利したわけではない。国王陛下も亡くなられたのだぞ! それを一人湯浴みか! 貴様の上官や部下も戦死したというのに――!」 「ユーゴ将軍」 「……何だ、イオン殿」 「今はエディ隊長を責めるよりも先にすべきことがあるのではないかと」 「む……失礼した」  自分も少々気が立っていたことを理解したらしく、それ以上言うことはなかった。別段エディを庇ったわけではない。このままでは会議が遅れてしまうと考えただけだった。  ユーゴの気迫に少し怯えた様子だったセドリックは室内が静かになったところで仕切り直しとばかりに咳払いをする。 「で、ではこれより臨時の軍会議を行いたいと思います。本来ならば国王陛下、並びに上将軍四名、神官三名の八名で行いますが、緊急を要するために現在この場にいる八名構成とします。会議の進行は慣例によりこの神官セドリックが執り行わせていただきます」  他七名の首肯を同意としセドリックは会議を始める。 「まず先の戦の報告をお願いします。本来ならば戦線に赴いた神官の役目なのですが……」  セドリックは戦争の功労者を一瞥し、 「ピール百人隊長」 「はっ」  よい判断だとイオンも内心で賛同する。ユーゴ将軍を始めとする他の千人隊長達は前線に出向いており、国王の護衛のために後陣に残ったスタニスラス上将軍麾下(きか)のピールが一番戦況を把握できている可能性が高い。何より、ピール隊長の理知的な部分は他の騎士では及ばないところがあるのだ。尤もそんなことを口には出さないが。  報告は下っ端の役割とでも思っているのか他の隊長格は若干ほくそ笑んでいる。未だに今のこの国の状況を危ぶむ様子はない。どれだけ頭が足りていないのだろうかと呆れてしまうのは致し方のないことか。
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