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裾と袖は長く、首元もボタンと淡い水色のリボンタイでガードされているが、ドレスから出た両の手とその顔の透き通るような白い肌は、子供ながらに羨ましく思えてしまう。優しい緑を秘めた瞳は胸元で輝く宝石に劣ることなく輝かしさを見せ、先程溜め息を吐いた口は、しかし優しそうに柔らかく弧の字を描いている。そして、最も強く人目を引くのが、ソレールを糸にしたのかと思える程に美しい、腰まで伸びた長い金色の髪。彼女が歩く度にさらさらと光の川が流れ、男性や美しさを求める女性が見れば溜め息を吐かずにはいられないものだ。彼女の右の瞳に写る白い十字も、不可思議だと感じる前に美しさを覚えてしまう。
見慣れた侍女の姿だが、やはり見るたびに思う。
「ずるい」
「昨日は編物をしましたので今日は……え?」
抱えられた小さな籠から布切れを取り出そうとしていた侍女は予期せぬ文句に動きを止めて聞き返してしまった。
「イオン、きれいでずるい」
「またその話ですか……」
侍女――イオンは呆れ顔で肩を落としながら布切れを戻し、籠を少女から少し離れたベッドの上にそっと置いて隣に座り、むくれている少女の頬に手を添えた。白く細い指に撫でられた少女は宝石のように輝く目を見つめ返す。
「わたくしからすれば、アシエス様は十年もすれば絶世の美女になられますよ。わたくしよりもずっと素晴らしい、ともすれば、世界中の殿方が求婚なさろうとするほどに」
いつもの返しに少女――アシエスはさらにむくれる。
「イオン、いつもそう言ってるけど、十年後なんてわからないよ」
尤もな意見に、しかしイオンは微笑みながら告げる。
「伊達に百年近く生きていませんよ。この身で生きてきて以来、その御年でアシエス様ほど可愛らしい女性は見たことがございません。間違いなく、アシエス様はわたくしの知る中で最高の女性でいらっしゃいます」
「ほんと……?」
弱々しく、しかし期待の込めた眼差しで問いかけてくるアシエスにイオンは優しく、しかし力強く頷いた。
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