プロローグ

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AIを移しかえるあいだは、ボディーの電力を完全に止めなければならない。 ボディーチェンジには、当人以外の誰かの手が必要だ。 ジェイドとアンバーは長いあいだ、たがいに、その処理のペアを組んでいた。 そう。もう三千万年にはなる。 ジェイドはアンバーのAIを移して、彼女を再生させる。アンバーはジェイドを。 そうして、二人の時間は永久にくりかえされる。 今回もまた、アンバーの新しいボディーに、魂を移して生まれ変わらせる。 そう約束して別れてから、二十年が経っていた。 ようやく、オレンジシティーを目の前にして、ジェイドの感情パラメータは、かなり平常値より上昇していた。 ガラスの箱のなかにオモチャをばらまいたようなオレンジシティーへと、勇んで入っていく。 だが、夢を見ているジェイドのほうには、これが悪夢の始まりであることが、嫌というほど、わかっていた。 これまで何千回となく、同じ夢を見ているのだから。 だめだ。やめてくれ。これ以上、 見たくない……。 そう思うのだが、夢を覚ますことは、ジェイドにはできない。 これだから眠るのは嫌なのだ。 定期的にオイル交換などのために、調整マシーンに入らなければならないのでなければ、二度と眠りたくはないのだが。 夢は一時記憶用のハードディスクから、必要なファイルだけを長期保存用のメモリに書き写すときに起こる、ちょっとした記憶の混乱だ。 蓄積されたメモリファイルにチェックが入ることで、ふだんはしまいこまれている古い記憶がよみがえることは、誰にでもある。 ただ、ジェイドの場合は、あの日、あの瞬間に、あまりにも強い衝撃を受けたことで、その箇所のメモリと、いくつかの処理装置を傷つけてしまった。 だから記憶処理のたびに、一番、見たくない、あの記憶がよみがえってしまう。 傷ついたレコードが、何度も同じ旋律だけをくりかえしてしまうように。 ジェイドはオイルの涙を流しながら、夢を見ていた。 夢のなかの自分は、はずむような足どりで、彼とアンバーに割りあてられた二人用コンパートメントに入っていく。
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