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「アンバー。帰ったよ。なんで出迎えてくれないんだい? 君の体内レーダー、にぶくなってしまったのかい?」
アンバーはゴージャスに見えるけれど、じつは、けっこう、さみしがりやだ。
いつもなら玄関口で、とびついてくるのに、その日に限って、ジェイドが入口のハッチをくぐっても、なんの反応もなかった。
コンパートメントは無人のように静かだ。
それに……さっきはアンバーをからかって、レーダーが鈍いなんて言ったけど、ジェイドのレーダーこそ、どうかしてしまったのだろうか。
アンバーの個体識別情報を発する電磁パルスが感知できない。
たとえ調整機で休眠していても、全停止しないかぎり、微量の電力は感じられるはずだ。
「アンバー?」
返事はなかった。
ジェイドは玄関からリビングにまわった。リビングルームは真っ暗だ。
やはり、誰かが、そこにいる反応は探知できない。
アンバーは出かけているのだろうか。
ジェイドは照明のスイッチを入れた。
とたんに、リビングの中央に、それが見えた。
彼女の好きな淡いピンク色のソファーから、ずりおちた、アンバーの姿が。
まるでアンバーは、ジェイドを見て微笑んでいるかのようだった。
お帰りなさい。ジェイド。待ってたのよーー
そう言いださないのが不思議なくらいだ。
「アンバー……」
ジェイドはエネルギー反応のないアンバーにかけよった。
きっとアンバーは、体内の発電システムに不具合が生じたのだ。なにしろ、この前ボディーをかえてから、三千年以上になる。
大丈夫。AIにさえ損傷がなければ、アンバーを再生することはできる。
大丈夫、大丈夫と、自分に言い聞かせ、横倒しになったアンバーを抱きおこしたジェイドは、そのまま、気が狂いそうな感情の波に全身をゆさぶられた。
事実、そのとき、ジェイドの感情抑制装置の回路はショートしてしまった。
横倒しになったアンバーを抱きおこすと、彼女の自慢のブロンドの頭部は、床に落としたビスクドールみたいに粉々になっていた。
大穴があいて、大切なAIが、無残にもメチャクチャに破壊されていた。
アンバーの倒れていた床に、オイルがいちめん、琥珀色にひろがって……。
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