第3章 変わらない日常の些細な変化

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「だからさ、あいつの合コンで俺、マジでゲロマズだったんだって」 あの二日間だけが突出して、イレギュラー目白押しだった。 「いいよ。マジで……そう、俺、口ん中まで切れたんだって……そう」 本当だ。 あの時は散々な目にあいましたって、誰が見てもわかるほど、痛々しい口元だったよ。 慌ただしい朝のひとコマ。 サンドイッチを選んでいる人から少し離れたところで、順番を待つ彼の注文はすでに決まっている。 接客しながらも彼用のサンドイッチとサラダはすでに袋に入れて手渡すだけになっていた。 「ありがとうございました」 「そうそう! あー……代返かぁ……それもありだな」 いやいや、勉強はしたほうがいい。 社会人になると、あの時、もっと勉強しておけばよかったっていう事態はけっこう起こりえるんだよ。 「合コンねぇ」 全く、そういう、まじないにでも掛かっているみたいに、彼の口からは合コンっていう言葉しか出てこない気がする。 「考えとく。んでもって、代返は頼むわ」 「だから、勉強はしっかりと……!」 愛用のスマホを耳から話した彼は、いきなり電話の続きのようになった、年上からの苦言に目を丸くした。 そして吹き出すように笑っている。 「あのね、これは本当に」 「はーい。ありがとうございます。あ、あと今日はお釣りないです」 再びミニトマトのサラダを追加するようになって、何も変わらない。 変わったといえば 彼はお決まりの注文を言わなくなって 俺もその注文を待たなくなった。 たったひとつだけ、他の人と違う点。
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