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「もし、迷惑に……」
「迷惑なんてことっ!」
少し大きな佐野君の声がごにょごにょと言葉を続けようとするのを遮る。
そして思わず見上げてしまった。
「そんなのあるわけないじゃないっすか」
見上げたら、胸が締め付けられるくらいに嬉しそうに笑う君がいた。
「やっぱ、最高に運いいじゃん、俺」
「……佐野、君」
「貴方と同棲とか、嘘みたい」
前髪をくしゃりと乱す手も逆になっていて、いつも以上に乱れたその髪がいとおしく感じた。
――指の骨、折ってよかった。
そんなことを言うもんだから、慌てて「こらっ」って怒ると、クスクス笑っている。
食器を洗っている最中の俺を引き寄せる左手は、不器用だからなのか、今までで一番力強い。
「ね、牧さん」
「ン、ぁ……ふっ」
人の名前を呼ぶくせに、彼が深くキスをするから、返事のひとつもできないんだ。
舌が柔らかく絡まって、唾液を飲み込む彼の吐息に身体が一気に熱を帯びてしまう。
「餌付け宜しくお願いします」
「食事だろ」
「そうっすね。あと、もうひとつ」
「?」
キス……されるんだと思ったのに。
「あ、あぁっン!」
首筋をカリッと噛まれて、甘い声を上げてしまった。
「水、アウトだから、風呂、入れなくて困っちゃうんです」
困っているとは思えないほど弾んだ声が、彼に甘噛みされている耳朶を伝って、下半身に直接響くように、そうやらしく低く囁いた。
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