第3章 変わらない日常の些細な変化

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いつもどおり。 ふたつのサンドイッチをビニール袋に入れて、今日はサラダ分のスペースが空いて幾分か軽いそれを、彼の持ちやすいようにしてから。 「ありがとうございます。んで、これ、代金」 「あ、ありがとうございます」 連続して互いに口にする言葉に彼はクスッと笑ってから、少しだけ痛んだのか、一瞬だけ顔をしかめつつ、袋を手にする。 まだ痛むんだぞ、と主張した傷のせいで、どこかぎこちないけれども 俺へ 確実に笑顔を向けながら、今まで一度だってなかった会釈をひとつして、駅へと歩いて行った。   やっぱり今日はコンタクトできたんだな。 真っ直ぐに、昨日よりも幾分かしっかりした足取りで、大学へと向かう。 「いってら……」 何を 俺はしてんだ。 彼との距離を自ら縮めようとするような、その一言を言いかけて、急いで飲み込んだ。 合コン、合コンとその話ばかりをしていた彼の思いがけない素直な部分を見つけてしまったからって だからって それがなんだっていうんだよ。 ただの通りすがりとさして大差ないこの距離はどう考えたって、縮まらないし 縮めたくもない。 そういうための脱サラだ。 この生活は周囲と心地良いと思えるだけの距離を保つためにとった選択肢なんだ。 「卵食べすぎだろう」  そんな心配だって大きなお世話でしかない、とても離れた距離なんだ。
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