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「サンドイッチ、買う時っていうか」
「……」
「駅前の人達を眺める牧さんはもっと楽しそうでしたよ」
「……」
そんなつもりはなかった。
楽しいな、と実感しながら、朝の光景を眺めることなんてなかったのに、彼にはそんなふうに見えていた。
「歳、いくつですっけ?」
「え? あー……」
なんで言いよどむんだろう。
彼に年齢を訊かれたところで、その範囲にはそもそも入れていないのに。
性別という時点で。
だから何も躊躇うことなく
「三十八」
だと答えればいいのに
どうしてか年齢を告げた後の彼の反応を気にしてしまう。
「可愛くないっすか?」
「は?」
「三十八なのに、駅へと走る人を見かけては、なんかテレビ中継のマラソンを応援するみたいに見つめるのって」
「……」
知らないふりをしたい。
こういう感情から遠ざかりたくて、あの場所でサンドイッチを売っているはずなのに。
「んで、そういうの見て、俺もなんか楽しくて」
「……」
「で、サンドイッチを買ったんです」
そしたら、驚くくらいに美味くてやみつきになりました。
笑って話す佐野君に、卵ばかり食べて、栄養取りすぎだぞと、また年寄りくさく忠告したら、アハハと平日の穏やかな店の中で目立つほど楽しげに笑っていた。
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