第5章 向かい合わせの距離

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たかられている、んだろうか。 「いつもこういうところで前はランチしてたんすか?」 「まさか、そんなことしてたら、いくら給料もらってたってすぐになくなるだろ」 午前いっぱいが休講になった佐野君は自宅アパートに帰るのも面倒だしと、またひとりごとなんだか、俺に話しているんだか、とにかくそう言ったまま隣にいた。 ――じゃあ 昼でも一緒にどう? その言葉を言う必要なんてなかったのだけれど、隣でじっと待たれていたら、つい口から零れてしまっていた。 取り消すことを許さない速さでおおはしゃぎして、ちょうど腹が減っていたんだと笑顔で言われたら もう仕方がないだろ。 どっちにしても 俺だって昼食をどこかで済ませようと思っていたわけだし。 彼のおかげで、思っていた以上に早く服を買い揃えることができたんだし。 ひとりだったら、何がいいのかあまりわからず うーんと唸ったまま立ち尽くしてしまう。 若干、彼の選んだ服はスーツばかりに慣れている俺には派手なように思えるけれど、俺のためを思って選んでくれたというのは簡単にわかった。 イケメンと騒がれるだろう、少し派手な彼の顔立ちには地味に思える淡い色のシャツ。 自分のクローゼットにはない色ばかりだったけれど たしかに彼に言われるまま 鏡で合わせてみれば似合っている とは思った。
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