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◇美帆
「美帆。もう終わりにしよう」
彼はそう言って、それまでずっと合わせていた視線を私から逸らした。
「どうして? 嫌だよ!」
私は彼の黒いスーツの袖口をぎゅっと掴み、強引に引っ張った。
彼の腕が弱々しく振れる。
「……ごめん」
顔を背けたまま彼はそう言った。
正直、こうなることは分かっていた。
最初からこの関係が長く続くとも思っていなかった。
それでも……。
それでも、彼からの提案を素直に受け入れられるほど、今の私は強くない。
私は視線を空へ飛ばした。
そこには黒い夜の闇に、一際美しく輝く東京スカイツリーが大きく映っていた。
クリスマスが近いからなのだろう。
すぐ近くにそびえ立つそのタワーは、いつもの淡い青色や紫色のライティングとは違い、透き通るような優しい緑色に輝いていた。
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