第34章:咲という人。

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「どうかされましたか?」 奈央子がハッと顔を上げると、咲が奈央子を覗き込むように見ていた。俯(うつむ)き黙っているので不思議に思ったようだ。 「あ……えと、そ、そうなんです。お願いがあるんですけど」 「何でも承りますよ?」 ニコニコ顔の咲。だけど、奈央子は目の前のこの人こそが ―「そこにいるスタッフってほとんどが女らしいんだけど、一人だけ男がいるんだって」― 間違いなく、優―正しくは、優を拐っている犯人―が指定している人物だと思った。 ―「で、奈央子はソイツに『今は食欲が無(ね)ーから、後から観光中でも食べれるように、パンをトレーか何かに包んで持って行けるようにして欲しい』的な事、言って欲しいんだけど」― 電話越しに聞いた優の声が、頭の中で響き渡る。 奈央子は膝の上で拳をグッと握りしめ、 「あの!」 「え?」
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