第34章:咲という人。

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「……………え?」 しーん… 野城の鋭い声に、三人ともピタリと動きが止まっていた。 奈央子はきょとんと隣の野城の顔を振り向く。 野城を見ると、椅子に座ったまま少しテーブルに上半身を乗り出して、咲を突き刺すような冷たい眼差しで見上げている。歩き出そうとした所で、まだ二人の近くで咲は立ち止まっていた。 「野城くん?どうしたの?」 咲は野城の呼びとめに一瞬驚いた様子だったが、すぐに営業スマイルに戻り「どうかされましたか?」と優しい口調で聞き返した。 そう、別にお客さんとスタッフの関係なんだから、こうやって呼び止められるのは珍しい事でもない。 だけど野城が訝(いぶか)しげな顔つきをしているので、"通常の客と店員のやり取り"では無いような 変な空気があった。 咲は背を向いていた身体を、奈央子と野城の方にちゃんと向き直した。 「ねぇ野城くん、どうしたの?」 「今。あんたの右手。彼女の身体に何か触っていただろう」 「………は?」 と咲。 奈央子の背後の咲と、奈央子の横の野城。奈央子を挟んで男同士二人の目がバチっと合う。
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