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エレベーターで昇ること最上階。
その時間、二、三分。
エレベーター内で一言も発しなかった受付嬢が、扉が開くのと同時に、
「どうぞ、この奥です」
と、なんとも事務的な口調でそう言った。
だけど、そんな口調なんかより気になったものが…。
「な、なんなんですか、これは…」
扉が開くと、真っ直ぐに伸びる赤絨毯が視界に飛び込んできた。
呆気に取られる俺を尻目に、受付嬢は表情一つ変えず…。
「お気になさらずに。コレはただの社長の趣味です」
と、さも当たり前のようにこう答えた。
「…ただの…趣味って…」
恐る恐る足を踏み入れる。
「…うわッ!!」
足首まで埋まりそうなフッカフカの感触に、俺は一瞬面食らった。
「では、私はここで失礼いたします」
「えっ?そこまで?」
エレベーターから一歩も降りることなく、受付嬢は帰っていってしまった。
ポツリと残された俺に、なんとも不安な空気がのしかかる。
このまま進んでもいいのだろうか…という不安。
この悪趣味な空間や、昨日の突拍子のない言動。
よくよく考えれば怪しくないか…。
もしかして辞退するチャンスは今しかないのでは…。
グルグルと思案するが、いい考えが浮かばない。
「まぁ、ここまで来たんだ。話だけでも聞いてみるか」
フカフカの絨毯に足を取られながも、俺はなんとか進み、これまたご立派なドア前に立った。
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